書評」カテゴリーアーカイブ

『ふたりのロッテ』

(エーリヒ・ケストナー作 池田香代子訳 岩波少年文庫)

ロッテこのお話は、ドイツのビュール湖のほとりにある「ゼービュール子どもの家」のできごとからはじまります。
ある年の夏、子どもの家に今年はじめての新入り20人がとう着しました。ところがその中にひとりだけ、前からきているルイーゼと、うりふたつの女の子がいました。ルイーゼはお転婆でしたが、その女の子は上ひんで、ロッテという名前でした
そのあと、ふたりはとなりのせきで食じをし、となりのベッドでねかされました。そして、ふたりはすぐになかよしになりました。
そのうち、ふたりはあるひみつをさぐり出しました。ふたりは、ふたごだったのです。

ルイーゼはお父さんだけで、ロッテはお母さんだけだし、ふたりは、同じ日に同じリンツで生まれていたからでした。
やがて、子どもの家からじぶんたちの家にかえるときが来ました。
ふたりは、ある作せんを考えました。それは、ふたりが入れかわって、ロッテはルイーゼがすんでいるところへ、ルイーゼはロッテの家へ行くのです。
ふたりはそれぞれの家につきました。
さて、これから、ふたりはどんなことをまきおこすのでしょうか。
これから先を知りたかったら、ぜひ読んでみてください。

利休の闇

著者の加藤さんにお会いしたのは10数年以上前だったか、私がまだ会社にいたころに業務で来社された加藤氏は当時経営指導のコンサルタントであった記憶している。失礼な言い方だが、もっさりした小男といった御風采で、その後彼が「信長の棺」という歴史小説を書いたところ、当時の首相小泉純一郎がファンになったということから、本が大いに脚光を浴び、ベストセラーになったのには驚いた。の後いくつかの歴史小説を出されたようで、これが最新作。著作は秀吉がらみの話が多いが。これは秀吉に茶道を手引きした利休を中心にした話。(利休という名はずっと後に秀吉に授かったもので、この小説の大半は、「宗益」という茶道の名で登場する。――因みに利休の名の「利」は本来茶人の避ける字で秀吉の嫌がらせが始まっていた印だということだそうです。)秀吉の時代に茶道がなぜ武士の間で流行したのかーそれは親分の信長が茶道に打ち込んでいたからに他ならない。

旨く行っていた秀吉との関係が、天正11年秀吉が天敵柴田勝家との決戦の前に山崎の「待庵」で開いた茶会の頃から、茶道に対する姿勢・考え方の食い違いから徐々に崩れて行き、また利休の秀吉に対する政治がらみの対応が不味かったこともあって、最後には秀吉に憎まれるようになり、利休の人生は秀吉に強いられた割腹死で終焉する。

その経緯を追った著者の綿密な資料調べは大変なものだが、全編を通じてなんとなく物足りない感じが免れないのは、著者の利休に対する愛着というか尊敬というかが足りず、読み終えて、とにかく主人公をもう一つ好きにはなれないことだ。歴史としては分かるが、小説としてはそこがもう一つ不満のあるところである。なお文章の書き方で、行替えが詩のように多くて、異様でもある(例は例えば127頁)。いかなる効果を狙ったのだろうか?茶事に必須の茶碗にご興味のある方には、とても面白い小説と思います。

孫 正義の参謀 ソフトバンク社長室長3000日

著者は身長180㎝、体重90キロという偉丈夫。松下政経塾に入校し選ばれて東京政経塾代表になったが、その後衆議院選挙に立候補して当選して民主党議員となり、菅・鳩山・岡田3氏の補佐役として活躍した。しかし小泉総理のやった「郵政選挙」で落選して転身、2005年末にソフトバンク社に入社、孫社長の下で社長室長を8年間務めた人物。ソフトバンク社の孫社長は、大胆な経営戦略に長け商売上手で、やたらに元気は良いが、NTTなどの既成戦力に楯突くことも多く、現状維持に傾くことが多い政治家・官僚などへの対策には若干弱みがあった。一方で嶋氏は政経塾のルートもあり、逆に政界・官界には広い人脈を持ち、対政治家・官僚対策には自信満々。よい組み合わせとなって、孫社長の弱みを補って目覚しい働きをしたらしい。彼はきっちり日記をつけていたので、日記に基づいて細かいところまで再現しながらこの本を書いたという。山場は4つあって、 続きを読む

フォト・ストーリー 沖縄の70年

41-E9xR3hPL石川 文洋 著 岩波新書 2015年4月第1版著者は沖縄生まれのフォトジャーナリストで、いわゆる戦場カメラマンでもあり(ベトナムの取材記録が生かされている)、商売柄、写真がいっぱい入っていて、沖縄に関するすべての問題を網羅していて、読みやすくて立派な本。沖縄の歴史は小国(日本に統合される前は、琉球王国だったのだ)の悲しい運命を象徴している。日本に吸収されなかったら、中国の一部になっていたのだろうか。太平洋戦争時の救いのない悲惨な戦場の話、占領されてベトナム戦争の基地になったこと、その後の基地定着化の悲劇、すべて全くついていない沖縄。ここには書いてないが、日本の皇室に対する沖縄人の特殊な思いー昭和天皇がマッカサー元帥に、沖縄の占領は長期にしてほしいと言ったという事実―なども沖縄人の喉に引っかかった棘になってもいるだろう。「あとがき」で辺野古移転問題に関して、著者ははっきりと安倍晋三政権を批判し、政権に妥協した仲井眞前沖縄県知事を「史上最低の知事」と断じている。

吉田健一

51fR1L3RX0L._SX351_BO1,204,203,200_長谷川 郁夫著  新潮社刊  2014年9月第1版ずっしりと重く5000円もする本。著者は「編集者」で、自分の出版社も持っていたが、それは潰してしまったらしい。
文学者の評論を書くには、同業の文学者でもよいのだが、編集者が書くというのもあり、その場合は特定の文学論に立脚して(それにこだわって)書く文学者による評論とは異なってやや平凡になりやすいものの、事実を公平に正確にもれなく記すというメリットがあるみたいだ。この本は事実を徹底的に網羅・記録しているようで、いわば吉田健一全記録というところに価値があるのかも。小説や詩を書くわけではない吉田健一は、やや一般的な人気は起こらないが、池澤夏樹編集の日本文学全集には1冊で採用されているように、プロの文学者の間では評価が高いようだ。それにしても、吉田健一の大酒吞みと健啖家ぶりには恐れ入る。

ケアのカリスマたち―看取りを支えるプロフェッショナル―

上野千鶴子著 亜紀書房刊 2015年3月第1版

私はケア前から上野千鶴子のファンである。フェミニストと呼ばれているが、
とにかくやわな女性ではなく、彼女と議論しても、其処等の論客は一発でノックアウトされてしまうだろう。
頭脳明晰に加えて勉強家で、リアリストだから、事実をよく調べてきちっと押さえている。
彼女の名著「おひとり様の老後」(2007年)の発展したこの本は、いよいよ、どこで、どう死ぬか「いかに死ぬか」の大問題を取り上げている。

彼女自身が、独身、構ってくれる家族はいない、しかし病院では死にたくない、自宅で、一人でうまく死ぬにはどうしたらよいのかという観点から、医療と介護の現実に迫っている。
面談相手の11人がみんな凄い人達で、著者のご希望に対応してくれそうな場所もある。
まあ介護保険ができているので、現実性が出て来たが、幸福な「自宅死」の実現にはまだ一寸時間がかかるかなと思うけど、方向は賛成ですね。

(個人的には私もある大病院に1か月弱入院したとき、廊下を歩いていて、「病院で死ぬということ」がどういうものかを見せられました。
ある狭い個室で瀕死の患者が医者に最後の凄い心臓マッサージを受けているところ、その病人は亡くなったが個室が狭いので、廊下で泣きじゃくっている親族たち、さりげなく来る黒服の葬儀屋さん、
思い出すだけでぞっとしますね。)

半年遅れの読書術 Ⅰ

51GT4K4APRL._AA160_どなたかの寄贈本のようです。「新刊書ではなく、あえて刊行後1-2年経た本を中心に取り上げ」―て書いた書評を集めた本。面白い発想から企画された本であり、また選ばれた執筆者30人と彼らが選んだ本が魅力的だ。残念ながら、とてもすべての選ばれた本を読むことは叶わないが、なにか自分もそれを読んだような気がしてくるところが彼らの書評の見事さなのかもしれない。

荒川洋治ほか 著  日本経済新聞社 2005年10月第1版

解放老人―認知症の豊かな体験世界

41OiCf54ulL._SL500_SS115_以前、この著者の1997年出版の「コリアン世界の旅」という本を文庫から借りて読みましたが、忘れ難い良い本でした。この本もなかなか良い本。野村氏の目がとても暖かい。   著者は山形県南陽市の佐藤病院という精神科病院にある「重度認知症治療病棟」に長期取材して書いたという。録音機を使って録音したのだろうが、東北弁がいきいきとして凄い。題名がいい。「解放老人」の「解放」がポイント。佐藤病院の理事長が「地道に黙々と生きて来た人たちが、こう(重度認知症に)なると、個性がうわーっと出てくるんですよねえ」と言った由。ここに例示されている患者のとんでもない、したい放題の行動は、いわば永年常識や世間体や煩瑣な人間関係のなかで抑えられていた本音がわーっと溢れ出るということらしい。周囲の人・介護する人は大変だが、本人は自由を得て元気になる。看護師長の話―「ここで最後を迎えられるお年寄りは、たいてい穏やかに亡くなられます。」 末期がんにも苦しまず、安らかに永眠するということのようだ。 さて皆さんどうしますか、認知症になった方が幸福なんですかね。

野村 進 著  講談社刊  2015年3月第1版

50代から始める知的生活術

51MbZTLg+VL._SL500_SS115_この著者は32年前に「思考の整理学」なる本を書いて大ヒットした英文学の先生。驚くべきことは、今もそれが文庫本になっていろんな有名大学の学内書店でベストセラーになっているのです。この本は今年92歳になった著者が書いた本で、これもヒットするでしょう。私も年を取ったので、読んでみました。実に実用的ですぐ役にたつ本です。そもそも字が大きく、項目が沢山切ってあって老体には読みやすい。120頁には、「中年以降はーーー余計な本は読まないことです。」とあり、「参ったな、なるほど、そうか」なんて思ったりもしましたが。

実はこの人は「――の整理学」という本を次々に書いているようですが、つい最近「老いの整理学」という本も出されたのですね。この人はついに「整理学」シリーズで一生を生き抜くつもりらしい。ついでに「整理学の整理学」という本もだしたらどうですか?とおちょくってみたい気持ち。

外山滋比古 著  大和書房刊 2015年2月第1版

イスラム国の衝撃

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この著者の一族は学者が多く、父の池内紀さんはドイツ文学専攻のもと東大教授で、思い違いでなければ、私はずっと以前にこの人の本を文庫の感想文で書いた記憶がある。また叔父の池内了さんは天文学者。
この本は2015年早々の大事件になったイスラム国による後藤健二さん殺害事件の前に書かれたものだが、事件後に現れた多くのイスラム国論議のなかで、結局一番正確な事実を提供しているとして高い評価を受けたのがこの新書本であったようだ。正確で多面的な考察、バランスの取れた論評はさすが専門分野の学者。言葉も「イスラム」でなく「イスラーム」、「スンニ派」でなく「スンナ派」、「タリバン」でなく「ターリ-バン」となっている。結論として、中東は今後どうなるか。著者によるよると、残念ながら混迷はまだ深まるばかりのようだ。

池内 恵 著  文芸春秋新書  2015年2月第4版